SNSを覆う不気味な夢の空間:若者がドリームコアに惹かれる理由
dream coreという奇妙な視覚表現が、世界のタイムラインを音もなく埋め尽くしている。褪せたパステルカラーの空、どこまでも続く無人の遊園地、低解像度のCGで描かれた白昼夢――。誰もが一度は眠りの中で迷い込んだことのあるような、だが決して実在しない光景が、スマートフォンの画面越しに無数のユーザーを捕らえて離さない。単なる一過性のインターネットサブカルチャーにとどまらず、視覚と記憶の隙間に滑り込む現代特有の美学として熱烈な支持を集めている。
深夜のショッピングモールや人気のない廊下の写真に不穏なアンビエント音を重ねた短尺動画の総再生数は、いまや億単位に達する。多くの若年層クリエイターがこのdream coreの世界観に強烈に惹きつけられ、経験したことのないはずの幼少期の記憶を呼び覚ます作品を連日投稿し続けている。不気味でありながらどこか切なく、奇妙な安心感をもたらすこのビジュアルは、過剰な情報にさらされ続けるデジタル世代の精神的な避難所としても機能している。
SNSで急増する不気味で懐かしい世界――ドリームコアの流行背景と心理的影響を徹底解明
なぜ今、ドリームコア(Dreamcore)と呼ばれる不気味でノスタルジックな世界にこれほど多くの人々が魅了されているのか。その背景には、急速に進む超情報化社会に対する集合的な疲労感と、ある種の心理的逃避欲求がある。インターネットの普及とともに育ったZ世代やα世代は、現実世界の息苦しさから逃れるように、ぼやけた色彩と不穏な静けさに満ちた夢の風景へと身を委ねる。
心理学の観点からは、「アネモイア(Anemoia:自分が経験したことのない時代や場所に対する郷愁)」という感情が深く関わっていると指摘される。荒い画素数、VHSテープ特有のノイズ、90年代から2000年代初頭を思わせる質感。それらは過去への未練ではなく、現実の重力から解き放たれた「存在しない原風景」への思慕だ。オンライン掲示板のRedditなどでは、不気味さと心地よさが同居する独特の感覚を共有し合うコミュニティが急速に膨れ上がっている。
リミナルスペースとウィアードコアから分岐した「夢の境界線」
ドリームコアを理解する上で外せないのが、近接するサブジャンルとの差異だ。特に、商業施設や無人の地下通路など「通過点」としての建築空間に焦点を当てたリミナルスペース(Liminal Space)と、より攻撃的で混沌とした視覚演出を用いるウィアードコア(Weirdcore)の存在が挙げられる。
リミナルスペースが無機質な空間そのものの不気味さを静かに提示するのに対し、ウィアードコアは初期インターネットのローファイな歪みや不可解なテキストメッセージを多用して強烈な不安を煽る。ドリームコアはその中間に位置し、綿菓子のような雲、青空、遊具といった幼少期のアイコンを織り交ぜることで、悪夢と白昼夢の狭間を漂うような独自の浮遊感を作り出すことに成功した。
ケイン・パーソンズと『The Backrooms』が切り拓いたサイコロジカルホラーの系譜
ネット発のシュールレアリスムを、本格的な映像表現へと押し上げた決定打が、当時10代だったクリエイターのケイン・パーソンズ(Kane Parsons)による『The Backrooms(ザ・バックルームズ)』の映像化だった。YouTubeに突如投稿された短編映像は、黄色い壁紙と蛍光灯の唸り声が無限に続く異空間を舞台に、観る者に強烈な閉塞感を与えた。
ジャンプスケア(急な大音量や怪物の出現で驚かせる手法)に頼らず、空間の歪みと心理的不安だけで恐怖を構築するサイコロジカルホラー(Psychological Horror)のアプローチは、映像業界に衝撃を与えた。彼の作品は、リミナルスペースやドリームコアの美学が商業映画の文脈でも通用することを証明し、ネット発のインディペンデントカルチャーが既存のエンターテインメント構造を揺るがす嚆矢となった。
デヴィッド・リンチから『Skinamarink』へ――A24をも動かす新たな映像言語
ドリームコアの映像美学は、映画史の文脈とも鮮やかに呼応している。不条理な夢のロジックを描き続けた映画監督デヴィッド・リンチ(David Lynch)の実験的精神は、現代のネットクリエイターたちの中に確実に息づいている。理屈では説明のつかない空間配置や歪んだ音声設計は、リンチ的シュールレアリスムの現代的な変奏と言える。
その潮流は近年、映画館のスクリーンを直接侵食し始めた。超低予算で制作されカルト的ヒットを記録したホラー映画『Skinamarink(スキナマリンク)』は、子供の視点から描かれた薄暗い部屋の天井や玩具の断片を延々と映し出し、ドリームコア直系の恐怖を観客に体験させた。さらに、気鋭の映画製作・配給スタジオであるA24がパーソンズの長編映画プロジェクトを手掛けるなど、ハリウッドのメインストリームもこの不可逆な映像言語の獲得に動き出している。
TikTokとByteDanceのアルゴリズムが加速させるミームの拡散力
ドリームコアが世界的な現象へと跳ね上がった最大の要因は、ByteDance(バイトダンス)が運営するTikTokのレコメンドアルゴリズムにある。視覚的なインパクトと、ピッチを極端に下げたドリームポップやノスタルジックなBGMが数秒で感情を揺さぶる仕組みは、短尺プラットフォームと完璧な親和性を見せた。
深夜、薄暗い部屋でベッドに横たわりながら画面をスクロールする個人の孤独な体験が、アルゴリズムを通じて無数のユーザーと同期する。自分だけの秘密の夢だと思っていた光景が、何百万人もの共通認識としてタイムラインに流れてくるという倒錯した連帯感が、この美学の拡散スピードを飛躍的に高めたのだ。
デジタルメディア・映像制作産業を揺るがすDIY制作手法とこれからの展望
ドリームコアの隆盛は、デジタルメディア・映像制作産業の制作パイプラインそのものにも変革を迫っている。かつては大規模なスタジオと潤沢な予算が必要だった映画的テクスチャが、Blenderなどの3DCGツールやVHS風のエフェクトプラグイン、最新の生成AIツールを用いることで、個人のベッドルームから数日で生み出せるようになった。
アマチュアとプロフェッショナルの境界線が曖昧になる中、クリエイターたちは高解像度化を追求する大手スタジオの潮流に逆行し、あえて解像度を落とし、ノイズを付加することで感情のリアリティを獲得している。美しさの定義が「完全性」から「不完全な記憶の再現」へとシフトするいま、ドリームコアが切り拓いた不気味な夢の地平は、次世代の映像表現におけるスタンダードとして定着しつつある。 (出典: dream core(Yahoo!ニュース))